2015_09
10
(Thu)09:27

バッハ 平均律 第1巻・第2巻(ほどよく調律されたクラヴィーアのための)

MESSAGE
モーツァルトのクラビコードとピアノフォルテ

バッハ(1685~1750)はバロック音楽を集大成した18世紀の作曲家・鍵盤奏者ですが、「平均律」と呼ばれる2巻からなるクラヴィーア曲集を作曲しています。 この曲集はピアノを勉強する者には必修の教本で、試験やコンクールには必ず課題曲として出されます。

何故必ず課題曲になるのでしょうか?

それはピアノを学ぼうとすると、クラシック音楽の基本の一つである対位法を学ぶ必要があるからです。 楽譜の構造を織物にたとえると、和声(ハーモ二ー)が縦糸であるとするならば、対位法は横糸だとイメージされて下さい。

演奏に一番大切な事は学問的な研究ではなく、「聴く人の心にどれだけ訴えるか」なのですが、クラシック音楽の場合は曲の内容の深さや形式の構築性、各声部の計算された論理性が聴く人の心を動かしています。 ですからそれらを再現しようとすると演奏者は楽譜を分析して研究しなければ再現する事はできないのです。
市田儀一郎著バッハ平均律解釈と演奏法
「バッハ平均律解釈と演奏法」市田儀一郎著
バッハ 平均律 第1巻 第2番 フーガ 分析
(中学生時代フーガ分析)
バッハ 平均律 第2巻 第1番 プレリュード楽譜
(中学生時代書き込み)


ところで「平均律」と言われますがバッハ自身は「Das Wohltemperirte Clavier」と名付けています。 現在のドイツ語表記では「Das Wohltemperierte Klavier」となります。 この「wohltemperirte」は「well-tempered」という意味で「ほどよく調律された」という意味です。

ピアノの技術の事は演奏する事とは別の仕事ですので、私も難しくて良く分からないのですが簡単にご説明いたします。

平均律(十二平均律)とはそれまでの古典調律法とは違い1オクターブを均一に12等分した調律法の事です。 固定されたピッチを持つ鍵盤楽器では曲に合わせてピッチを変えるという事はできません。 そこで平均律という調律法で機械的にすべての半音を同じ音程で並ばせ24調どの調で弾いてもきれいな響きで聴こえるように固定しているわけです。 

バッハの時代以前では中全音律と呼ばれる調律法が主体的に使われておりました。 中全音律で24調を弾くと響きに耳を覆いたくなるような汚い和音の響きが出てくるのです。 ですからそれまでは中全音律の鍵盤楽器では限られた調の音楽しか実際には作られなかったようです。

しかしヴェルクマイスターという人が以前から考えられていた今の平均律に近い理論を具現化させ新しい古典調律法を考案しました。 そして徐々にそれらは実用化され、早速バッハはその「ほどよく調律された」鍵盤楽器のためにシャープやフラットがいくつも付いた調号での作曲を試みたようです。 そこで「well-tempered」とタイトルに書いたのであって現在の平均律の事ではありません。

さてC音を基音と考えて1:2の振動数の割合でオクターブ高いC音を求め7オクターブ高いC音を求めていってみます。 また一方別のやり方でC音を基音とし2:3の振動数の割合で5度高いG音を決め、そのG音からまた2:3の振動数の割合で5度高いD音を決め、それを12回繰リ返して行くと先程と同じC音に至ります。

しかし後のやり方で得られたC音の方がわずかに高くなります。 これはピタゴラス・コンマと呼ばれギリシャのピタゴラスがその昔すでに発見していた事です。 これは固定されたピッチを持つ鍵盤楽器には大変な問題で、中全音律ではそのしわ寄せをシャープやフラットが多い調にずっと負わせてきていたわけですが、その部分はひどい響きになるので実際には殆んどシャープやフラットの多い調号での曲は作られなかったようです。

ですからヴェルクマイスターの調律法はいかに画期的な事であったか、現代に生きる我々は時空を超えて考えないと理解不能になるかもしれません。

ピアノの発展とともに、調律法も時代に合わせて変化してきていますので、古典派であるモーツァルトやハイドンなどのソナタが、♭や♯の少ないシンプルな調の曲が多いのは、その当時のピアノや調律法が、シンプルな調性にしか美しく響かなかったためかと思われます。



さてバッハの平均律第1巻ですが、ケーテン時代(1717~1723)に作られ”ほど良く調律されたクラヴィーアのための”と表記されましたが、第2巻は晩年の1744年に集大成されこちらには前述のような表記はなく”24の新しい前奏曲とフーガ”と記されているだけです。  しかし現在では平均律第2巻と呼ばれています。

ヨーロッパではバッハの平均律とショパンのエチュードとベートーヴェンのソナタは全曲お勉強するのが普通だと関孝弘先生をはじめ外国の先生方がよくお話しされていましたが、日本では試験の曲しかしていないという事が多いです。 でもそれがピアニストとして仕事をしていくようになった時に禍するようです。 将来プロで活動していきたい方は中学、高校の一番吸収できる年齢の時に平均律全曲弾いてみるという楽しい目標を掲げてお勉強をしてみられたら良いのではと思います。
P1010359.jpg
(バッハ平均律第1巻ヘンレ版)
P1010360.jpg
(バッハ平均律第2巻ヘンレ版)


平均律の曲の中から私の好きな曲をご紹介したいと思います。 1曲目は第1巻の第4番 嬰ハ短調 BWV849です。 そしてもう1曲は第2巻の第22番 変ロ短調 BWV891です。 どちらも精神性の深い楽曲的にも難しいものですが、それと感じさせない世界にバッハのすごさを感じます。

バッハ 平均律 第1巻 第4番 プレリュード~オコンサール
https://www.youtube.com/watch?v=QbWF0L3d6o8
バッハ 平均律 第1巻 第4番 フーガ~オコンサール
https://www.youtube.com/watch?v=eoca4MtnYQY 
バッハ 平均律 第2巻 第22番 プレリュード~オコンサール
https://www.youtube.com/watch?v=DqwgVvYg2O8
バッハ 平均律 第2巻 第22番 フーガ~オコンサール
https://www.youtube.com/watch?v=A6Ft8AbZRJk

オコンサール.M 公式サイト(Mehmet Okonsar, 現在David Ezra Okonsar)…トルコを代表する世界的なピアニスト
http://www.okonsar.com/

平均律のCDは発売されている著名なピアニスト全てと言っていいくらい持っていますが、その内のいくつかをご紹介致します。 趣味として愛好するというより、私自身が子供のときよりお勉強のために買い集めて来ていつのまにか集まったという感じです

本来、バッハの原典版と呼ばれる楽譜には音以外にはほとんど何も指示が書かれていませんので、演奏者によっていろいろな解釈が出てまいります。 ですからお勉強する時は、いろいろな出版社のバッハの楽譜やある時はCDの演奏を参考にし、「ここは繋げるか、ここはスタカートにするか、レガートにするか」等、楽譜を睨みながら研究を致します。 ですから気が付いたら「平均律」のCDが何枚も集まっているわけです。

門下のご家族の方で下のCDをお聴きになりたい方は生徒さんを通して受付へお尋ねください。

ウイルヘルム・ケンプ
ケンプ
エドウイン・フィッシャー
エドウイン・フィッシャー
イエルク・デームス
イエルク・デームス
イエルク・デームス(新録音)
デームス 平均律CD 新録音
タチアナ・二コラーエワ
タチアナ・二コラーエワ
ダニエル・バレンボイム
バレンボイム
アンドラーシュ・シフ
アンドラーシュ・シフ
グレン・グールド
グールド
フリードリッヒ・グルダ
グルダ

グレン・グールド演奏 バッハ平均律第2巻22番プレリュード・・・ファンは多いですが個性的です。
https://www.youtube.com/watch?v=T07ElVeIgbw

リヒテル演奏 バッハ平均律第1巻4番プレリュード・・・巨匠の演奏ですのでテンポだけを真似ると全く違うものになります。
https://www.youtube.com/watch?v=k4xGqq1VwkU

アンジェラ・ヒューイット演奏 バッハ平均律第2巻22番プレリュードとフーガ…バッハ弾きと言われているカナダの女流ピアニストです。
https://www.youtube.com/watch?v=HRoBL-UqFvA

同じ曲でもピアニストによって随分違うのがどなたでも分かると思います。 ウイ―ンのピアニスト、イエルク・デームスの演奏にリンクしたかったのですがアップされていませんでしたが、デームスは私が参考にする事が多いピアニストの一人です。

明日はベートーヴェンの交響曲4番と6番「田園」と9番「合唱」をリストがピアノ用の楽譜に編曲したCDを持っていますので、それについて書いてみようと思います。